大判例

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札幌高等裁判所 昭和46年(行ス)1号 決定

抗告人(被申立人) 北海道江別高等学校校長

相手方(申立人) 遠藤衛 外二名

主文

原決定を取り消す。

相手方らの申立をいずれも却下する。

訴訟費用は第一、二審とも相手方らの負担とする。

理由

抗告人は、主文同旨の裁判を求めた。抗告人の抗告の理由およびこれに対する相手方らの主張は各別紙のとおりである。

(当裁判所の判断)

(一)  相手方らがいずれも北海道立江別高等学校の生徒として同校第三学年に在学していたものであること、抗告人が相手方遠藤に対して昭和四五年一二月二七日、相手方飛田に対して同月二四日、相手方原田に対して同月二六日各退学処分を行つたこと、北海道立高等学校学則第二三条には「懲戒による退学を命ずるのは、左の各号の一に該当する場合に限る。一、性行不良で改善の見込がないと認められる者、二、著しく学習を怠り成業の見込がないと認められる者、三、正当の理由がなくて出席が常でない者、四、学校の秩序を乱しその他生徒としての本分に反した者」と規定されていることは当事者間に争がなく、疎明資料によれば、抗告人は相手方三名がいずれも右の第四号に該当するとして前記退学を命じたものであることを認め得る。

(二)  相手方らは、右第四号に該当する行為をしていないと主張するが、抗告人提出の資料によれば、相手方らには少くとも次のような行為のあつたことが認められる。

(イ)  昭和四五年六月一三日午前一一時ころ、相手方らは、学校側の説得を無視して、同校記念館前で、安保粉砕、江高解体等をスローガンとする集会、デモを行つた。

(ロ)  昭和四五年七月六日相手方らは、第一時限からの授業を放棄し、学校側より不許可の申渡しがあつたのにかかわらず、記念館内で生徒大会即時開催をアピールする集会を行い、かつ、各教室をまわつて右集会に参加方を呼びかけた。

(ハ)  同月八日相手方らは生徒大会即時開催等を要求して、期末試験を放棄し、学校前庭で、遠藤、原田はハンガー・ストライキに入り、飛田はこれに同調して坐込みをはじめ、学校側の数度にわたる説得も聞きいれず、翌九日にかけてハンスト、坐込みを行つた。

(ニ)  昭和四五年一二月一九日相手方らは校長室封鎖の計画、実行を謀議し、飛田、原田は同日午後六時ころ校長室に侵入して封鎖をはかつた。遠藤も同日午後七時ころ封鎖に加わる予定であつたが、その前に学校側により封鎖が解除されたので、実行できなかつた。

(ホ)  なお、相手方遠藤については、そのほかに、昭和四五年九月一五日札幌市で出入国管理法反対デモが行われた際、学校に無届けでこれに参加し、公務執行妨害罪等の容疑で逮捕されたことがあり、同人のたび重なる非行に対して抗告人は同年一〇月一七日無期自宅謹慎を申渡したが、相手方遠藤はこれに従わず、同月一九日登校した。その後、同人は、右デモの無届参加を反省し、今後学校の規則を守る旨を申出たので、同月二三日自宅謹慎を解いたが、同年一二月一日に開かれた生徒大会において、遠藤は右の反省と確約を否定した。また、同人は同月一七日午後九時四〇分ころ同校放送室屋根裏に侵入した(職員会議の盗聴をはかつたものと推測される。)。

以上のような相手方らの行為、殊に校長室の封鎖というようなことは、正に、学校の秩序を乱し、生徒としての本分に反する重大な非行というべきである。これに対し抗告人が前記学則二三条第四号により、相手方らを退学処分にしたことについては、その処置が最善であつたかどうか、例えば、無期停学処分の方がよりよかつたのではないかどうか、というような点において論議の余地はありうるとしても、そうした判断は、教育受責者として懲戒権を与えられた校長の教育専門家としての裁量の範囲に属するものというべきであり、前記のような重大な非行に対してとられた本件退学処分をもつて、裁量の範囲逸脱ないし裁量権の濫用として、違法ということはとうていできないものと解する。

(三)  相手方らは、本件退学処分においては、相手方らに全く弁明の機会を与えなかつたから、その手続において憲法三一条に違背するという。

しかし、退学処分は刑罰でないから、これに憲法三一条の適用はないし、本件の場合、抗告人が相手方らの弁明、防禦権を制限するような仕方で、抜打ち的に処分したことをうかがわしめる資料もない。かえつて、抗告人提出の資料によれば、前記昭和四五年一二月一九日夜、校長室封鎖排除の直後、学校側は相手方飛田、原田について事情聴取を行つたが、両名とも、一人ずつの取調べには応じられない旨述べて弁明を拒否したこと、その後も、同月二四日相手方遠藤、原田について、翌二五日遠藤について説得、指導を試みたが弁明を得られなかつたことが認められ、学校側としては、本件処分にあたり、相手方らの弁明を聞くべく相当の配慮をしていることがうかがわれる。したがつて、手続に憲法三一条の違背があるという相手方らの主張は採用できないし、その他本件処分を違法として取消すべき手続上のかしも認められない。

(四)  なお、相手方遠藤は、「昭和四五年一〇月一七日無期自宅謹慎の処分を受けているので、それ以前の同人の行為(原決定別紙一項(一)ないし(四)の行為)はすべて右処分の理由となつているのに、同行為をもつて再び本件処分の理由とすることは、二重処罰の禁止の法理に反し、許されない」という。

しかし、前に一定の非行を理由として無期自宅謹慎の処分を受けたのに、反省の色なく、更に非行を重ねた場合、以前の非行と処分の経緯を併せ考え、全体の非行の総合判断から退学処分を選ぶことを違法とすべきいわれはない。

(五)  以上のとおりで、相手方らに対する本件各退学処分にはいずれも違法のかどはなく、したがつて、これが執行停止を求める相手方らの申立は、行政事件訴訟法第二五条第三項にいう「本案について理由がないとみえるとき」にあたるから、許されないものであり、これを認容した原決定は失当であるから取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条一項本文を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 武藤英一 秋吉稔弘 花尻尚)

(別紙)

抗告の理由

第一点 原決定は行政事件訴訟法第二五条第三項に違反し、「本案について理由がないとみえる」にも拘らず、退学処分の効力の執行を停止した違法がある。

一 原決定は判断の第三項において

「公立高等学校における校長の懲戒処分は、その判断が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められる場合を除いては、原則として校長の裁量にまかされるものと解されるが、被申立人が本件退学処分の理由としてあげる別紙記載の各行為をどのような資料によつて認定した上で右の処分を決定したのかという点について疎明は何もない。しかも前記のように、申立人らが右行為の趣旨や程度を根本的に争つている本件の現段階では、いまだ本案について理由がないとみえると速断することはできない」として執行停止を決定した。

二 なるほど、抗告人は原裁判所の求めにより意見書は提出したが、これを疎明する資料は提出しなかつた。

然し行政事件訴訟法第二四条は民事訴訟の原則を排除し、裁判所が職権をもつて証拠調することができることを規定し、特に同法第二五条及び第三〇条により厳格な要件を充す場合においてのみ、行政処分の効力の執行を停止しうることを認めているのであるから、抗告人に対し、本件退学処分の理由として掲げられている各行為についての疎明資料の提出を求めこれを取調べることは、原裁判としては絶対必要の措置であつた訳である。

もとより当事者が進んで資料の提出をすれば良いのであるが、訴訟法に無知な抗告人としては、原裁判所からの求めがあるものと考え、その提出方をまつていたのである。

それはともかく原裁判所が右措置を執ることなく疎明がないとして決定したことは審理不尽のそしりを免れない。

三 ところで、相手方らの行為については別紙証拠目録中疎乙第四号証ないし第一五号証の各証拠によつて明白にこれを認めうるのである。

これを要するに相手方らは学校生徒会の新聞局に入局するを同局の規定によつて拒否されたことに端を発し、これが抗告人の弾圧であるとして学則、学校内規を無視し、再三再四に亘る学校及び親権者らの指導を排しあらゆる不法手段をくりかえしたのである。

四 このように学校の封鎖、占拠を含む行為は、学校内規に反するはもとより犯罪行為であり、公教育としての高等学校教育を阻害し、公共財産である学校施設に著しい損害を与え、他の多くの生徒の勉学を妨げたもので到底生徒の本分に反する行為である。

五 しかも抗告人は相手方らに対し、教育的見地から、全学及び相手方らの親権者を含めあらゆる指導を尽したが、これら指導を一切拒否し、もはや高等学校教育の限度を超えるものとして退学処分としたものである。

六 そもそも行政裁量である懲戒処分は公教育の施設としての内部規律を維持し、教育目的を達成するために認められた自律的作用である。

従つて学校長である抗告人が生徒の行為に対し、懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶかは、懲戒権者たる抗告人の裁量に任されているのである。

そしてその裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所はその処分を取消すことができるのであつて(行政事件訴訟法第三〇条)懲戒処分は懲戒事由とされる生徒の行為の軽重、態様、行為の他の生徒に与える影響、等諸般の要素を考慮する必要があるが、これらの判断は学校内の事情に通暁し、直接教育の衝に当る学校長の裁量に任すのでなければ、適切な結果を期待することができないのである。

七 このように見て来ると本件執行停止申立については正に行政事件訴訟法第二五条第三項にいう「本案について理由がないとみえるとき」に該当するといわなければならず、原決定は明らかに誤りである。

第二点 原決定は「処分により生ずる回復の困難な損害を避ける緊急の必要がない」のに、執行停止を認めた違法がある。

一 原決定は判断の第二項において

「右のように申立人らが本件退学処分によつて江別高校における在学関係を失い、ひいては、それぞれの志望大学の今年度の入学試験を受けることもできないという不利益は行政事件訴訟法第二五条の規定にいわゆる「回復の困難な損害」にあたるものと解すべきである」

とし、更に

「申立人らが志望する各大学の今年度の入学願書受付の締切日や、江別高校の卒業試験が切迫している以上、申立人らには、右の回復の困難な損害を避けるため、本件退学処分の効力を停止すべき「緊急の必要」があるというべきである」

と判示した。

二 然し右のような不利益は退学処分という懲戒の性質上やむを得ない当然の結果である。

若し、大学入学願書の締切日が近いとか、卒業試験が切迫しているだけの理由で、抗告人のなした懲戒処分の効力の執行が停止されることになれば、常にその時機における懲戒処分の効力の執行が停止されることになり、高等学校教育の掌に当る抗告人の行う一切の教育的処分は許されないことになる。

しかも原判決は判断の第三項において、自ら「社会観念上著しく妥当を欠くものと認められる場合を除いては、原則として校長の裁量にまかされる」と判示しながら、執行停止の申立の時機によつて裁量が左右される結果となり、爾後高等学校においては、如何に学則に反する行為があり、他の生徒、或は学校に回復することのできない損害を与えても、これに対する教育的裁量に基く処断ができないことになり、教育的に著しい悪慣例を残し、学校教育の秩序は破壊され、また学校教育法第一一条、同法施行規則第一三条など関係法令は空文となつてしまうのである。

三 高等学校生徒に対する教育は三年の年月を要し、日々の積み重ねと、教師の指導によつて達せられる。

この意味から考えれば、生徒に対する懲戒処分は常に回復困難な損害を生ずるであろう。然しこれは教育の性質上当然のことであり、それをふまえての教育的処分なのである。

特に相手方らに対する処分は、あらゆる指導にも拘らずこれに応じないのであつて、公教育としての高等学校教育の限界を超えるものとして行つたものであるから、試験を受けられないことはもとより当然の措置で、これをもつて緊急性があるとするのは本末てん倒の論理といわなければならない。

四 しかも相手方らは、相手方らが、原審の執行停止後配布した疎乙第一六号証(ビラ)によつて明らかなように、今後も従前同様の違反、違法行為を企図しているは勿論、更に「反抗から判乱へ転化」させようとしているのであつて、執行停止によつて生ずる公教育の被害は益々増大する危険が強いのである。

五 以上の次第で原決定は速やかにこれを取消されるべきものである。

第三点 原決定は「公共の福祉に重大な影響を及すおそれがある」にも拘らず、執行停止を認めた違法がある。

一 相手方らの本件各行為に対し、抗告人のとつた処置は、高等学校生徒に対する教育的措置である。にも拘らず、若し原決定に従うなら、生徒は爾後如何なる行為をしても処分の効果を免れうるという保障を得たことになり、ひいては教育の正常な実施という公益すなわち公共の福祉に重大な影響を及すおそれは大きい。

二 特に本校における相手方らのなした封鎖直前の生徒大会において、相手方らの学則、内規を無視した行為に対し、抗告人即ち学校のとつた指導処置が正しいと圧倒的多数で確認されたにも拘らず、これに反し、学校封鎖など不法な行為によつてその主張を通そうとする相手方らの行為は、学校教育の中で特に重要視されている生徒会活動を全面的に否定しようとするものである。

しかも原決定後は生徒の多くは、自主的な生徒会活動に対し絶望感を持ち、生徒大会の権威に対しても疑問を持ちはじめている現状を見ると、教育的に重大な影響があるといわなければならず、結局公共の福祉に重大な影響を及すおそれがあるのである。

(別紙)

相手方らの主張

第一、即時抗告理由書に対する答弁

一、右理由書第一点は全面的に争う。

(イ) 処罰根拠事実が存在するとの主張について

1 原決定別紙記載の各行為の有無に関する答弁は本書別紙のとおりであり、抗告人の主張は事実に反する。

2 抗告人は当審に至つてようやく疎明書類を提出しているが、乙第四号証ないし、九号証、同一二号証ないし一四号証はすべて処罰者側の主観的認識を記載したものにすぎず、その客観性は疑問であるうえ反対尋問を経たものでないから、その証明力は低く、いやしくも、「本案について理由がないと見える」というような決定的判断の基礎となしうるものでは断じてない。そもそも、このような処罰者側作成の文書により本案について理由がないと断定され、処分の効力が維持されるならば、処罰者が自己の主張に副う報告文書を恣に作成しておきさえすれば、常にどのような処分でも強行し、貫徹できることになり誠に不都合である。

3 乙第二号証の学校内規は、相手方(原審申立人―以下単に本人と呼ぶ)等の内規違反の主張の前提として提出されたものと思われるが、これら内規は本人等には全く知らされていなかつたものである。そもそも、学内の定めであつても、それが拘束力を持つものであり、生徒の行動を規制し、それに違反した者に処罰を課する趣旨のものである限り、予め生徒に告知され、もしくは知る機会が与えられていなければならない。しかるに、本件内規は生徒手帳にも記されておらず、本人等には知る機会もなかつたものである。

4 各種ビラと写真について、

本人等は原決定後はビラ配布やデモなどいわゆる活動は全く行つていないし、各種ビラについては抗告人が付加している説明は事実に反し信用できない。また、写真のうち、本人の飛田、原田が校長室に居る所を写したものについての付加説明を除き、他の写真に付加された説明は争う。

(ロ) 処罰根拠規定の解釈適用について

1 懲戒規定の解釈と適用

そもそも懲戒は人に対する制裁であり必然的に人権に対する侵害を内容とする重大な処分である。従つて刑事法における罪刑法定主義を類推し、懲戒規定は厳格に解釈されなければならない。また具体的な懲戒規定該当事実に対してなされる処分は相当なものでなければならず、いやしくも権衡を失するものであつてはならない。

右は一般論であるが、本件の場合、規定の掲げる各行為が極めて抽象的であるうえ(罪刑法定主義の思想からいえば、このような規定自体の効力も疑問である。)それに対する制裁は「退学」という学生にとつては死刑にも等しい重大な処分であるから、その解釈適用に当つては、とりわけ慎重を要する。また、本処分は学校教育の場において行われるものであるだけに、十分な教育的配慮をもつて適用される必要があるのである。(特に、高校教育が義務教育化した今日、高校教育の場から追放される被処分者の受ける社会的経済的不利益はその心理的悪影響とともに十分に斟酌されなければならない。高校を卒業することは大学進学の前提であるが、一度退学処分を受けた者が他の高校に編入もしくは入学することは極めて困難な実情にあることを思えば、本件退学処分は事実上高校教育のみならず、大学教育からも本人等を排除することを意味すると言つても過言ではない。)してみれば、本件懲戒規定は、被処分者の非行事実が極めて重大であり、かつ、より軽い処分(たとえば訓戒や停学等)によつて被処分者の反省を促す等の手段を取ることが無意味であり、被処分者に対する教育による改善教化の見込みがなく、その者を学内より排除しなければ、学校秩序の維持や学校教育の逐行が不可能となる場合にのみ、適用されるべきものと解すべきである。

2 抗告人は学校長が生徒に対し懲戒処分を発動するか否か、またどのような処分をするかは学校長の裁量に任されていると主張している。しかし、他方本処分の法律上の根拠として道立高校学則第二三条第四号を挙げている以上、本人等の行為が右規定に該当するとの判断を要するものであり、右判断は恣意的になすことは許されない。具体的事実が処罰規定に該当するか否かは法律解釈の問題であつて、抗告人の本件処分は前記法条の解釈を誤つたものである。(ちなみに、本処分の際に職員会議で退学処分の是非につき論議があり、退学処分をすべきでないとの意見も決して少くなかつたようである。これは誠に傾聴すべき見解であり教員の間に本件行為はいまだ右法条に該当しないとの判断があることを示すものである。)

(ハ) 要するに本件処分は、事実上の根拠に基ずかず(抗告人主張の事実中一部は存在するがそれは右根拠となりうるものではない。)処罰法条の解釈適用を誤り、かつ社会通念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したものと認められ、いやしくも、現段階において、「本案につき理由がない」と判断することは到底不可能である。

(ニ) 遠藤の処分について特記すべき事項

遠藤は昭和四五年一〇月一七日無期自宅謹慎の処分を受けている。従つて、右処分以前になされた行為(原決定別紙第一項一ないし四の事実)はすべて右処分の理由となつており、右行為をもつて再び本件処分の理由となすことは二重処罰の禁止の法理に反し許されないものといわねばならない。

二、第二点は争う。

論旨は本人等の受ける不利益は退学処分の性質上やむをえないからこれをもつて回復困難な損害と解すべきではないというのであるが、これは全く転倒した論理であり、法第二五条の趣旨を全く誤解したものである。

尚、抗告人は乙第一六号証により本人等が違法行為を継続する意思であると主張するが、右ビラは全く本人等の関与したものでなく、配布行為など断じて行つていない。本人等は原決定後今日まで紛争には一切関係せず、ひたすら授業に出席し、大学進学を目指して勉強にいそしんできたのであり、学内復帰により、公教育が破壊されるなど全くありえない。

三、第三点は争う。

第二、緊急の必要性について、

原決定後、本人等は左記のとおり大学受験手続ずみであり、特に本人原田は入試に合格し、入学手続ずみである。右の次第であるから、原決定が維持される高度の緊急の必要性が認められる。

名前

受験大学

試験日

原田

札幌商科大学

二月六日試験、合格

飛田

小樽商科大学

三月二三、二四日

遠藤

北大、室蘭工大

三月三、四日

三月二三、二四日

別紙

一、遠藤について

原決定別紙第一項(一)は否認する。

同(二)は遠藤が集会申込みしたこと、学校側が許さなかつたこと、集会に参加したことは認めるがその余は否認する。

従来、集会については届出制がとられており、集会も、ホームルーム開始(八時四五分)や授業開始(八時五五分)に支障のないように八時四〇分までに終る予定で学校に届出をしており、学校側がこれを禁止すべき理由はない。

同(三)はハンスト参加のみ認め、その余は否認する。

同(四)はデモ参加と逮捕の点は認めるがその余は否認する。公務執行妨害や、事前の文書指導の事実はない。

同(五)は否認する。(一〇月一七日に登校した事実も全くない)。

同(六)は自宅謹慎が解かれたことは認めるが、その余は否認する。

同(七)は論旨不明であるが否認する。試験の答案を早く提出したことを問題としているようであるが、一二月九日の「政経」の試験の時、頭痛のため、答案を試験終了一〇分前に提出したこと、一二月一一日の化学の試験で終了一〇分前に提出したことは事実である。しかし、答案が完成した以上、テスト開始後三〇分すぎれば提出してもよいと言うのが従前の慣行であり、何等問題とすべき行為ではない。尚化学の試験は九〇点であり、「政経」も得点不明であるが、優秀な成績であつたから、答案作成上の支障は全くなかつたものである。

同(八)は否認する。

同(九)は否認する。

二、飛田について

同第二項(一)は否認する。

同(二)は集会参加(無届ではない)は認めるが、その余は否認する。(集会を開いたこともない。)

同(三)は否認する。

同(四)は否認する(集会のアピールをしたことはあるが、集会は開かれていない。) 同(五)、(六)は否認する。

同(七)のうち、校長室に立入つたことのみ認め、その余は否認する。

三、原田について

同第三項(一)は集会、デモの参加のみ認めるがその余は否認する。(届出は必要と思つていなかつた。)

同(二)は集会に参加したことは認めるが、その余は否認する。(無届でもない)本集会は全校の四分の一に当る約三〇〇名が参加したもので、原田がこれに参加したことをもつて特に同人を処罰すべき理由とはなしえない。

同(三)は否認する。

同(四)、(五)は否認する。

同(六)は校長室に入つた点のみ認めその余は否認する。

原審決定の主文および理由

主文

被申立人が申立人らに対し別表記載の日付でした各退学処分の効力は、いずれも本案判決が確定するまでこれを停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

(申立ての趣旨および理由)

申立人ら代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由としてつぎのように主張した。

一 申立人らは、いずれも北海道立江別高等学校の学生であつて同校三年次に在学していたものであるが、被申立人は、申立人らに対し、それぞれ別表記載の日付で退学処分を行つた。

二 しかし、右処分はつぎの理由で違法であるから取消しを免れない。

(一) 北海道立高等学校学則第二三条によれば、「懲戒による退学を命ずるのは左の各号の一に該当する場合に限る。

性行不良で改善の見込がないと認められる者

著しく学習を怠り成業の見込がないと認められる者

正当の理由がなくて出席が常でない者

学校の秩序を乱しその他生徒としての本分に反した者」と規定されているが、申立人らには右学則各号に該当する行為はない。被申立人が主張する別紙記載の各行為は、一部は真実に合致するものもあるが、大部分はその趣旨や程度が歪曲誇張されていて到底承認することのできないものである。

(二) 憲法第三一条の規定は、行政機関が懲戒処分という人の権利義務に重大な影響をおよぼす処分を行う場合にも当然適用されると解すべきである。しかるに被申立人は、昭和四五年一二月一九日夜形式的に申立人らから事情聴取を行つただけで全く弁明の機会を与えずに処分したものであるから、本処分の手続は憲法の右規定に違背する。

三 申立人らは、本年二月に実施される卒業試験を受け、卒業となる見込であつた。しかるに本処分によつて、申立人らは授業を受けることはもちろん校内に立入ることさえ許されていない。また申立人らはいずれも大学進学を希望しているが、卒業試験を受ける機会も与えられず、被申立人から卒業見込証明書の交付も受けられないので、入学願書を提出することもできない。憲法第二六条第一項は、国民の教育を受ける権利を保障しているが、申立人らは、本処分によつてこの基本的な人権の一つである教育を受ける機会を阻止されている。

以上のとおり本処分によつて申立人らは回復不能の損害を被るおそれがあり、しかも時々刻々その損害が拡大していくのであるから、これを避けるため本処分の効力を停止する緊急の必要がある。

(被申立人の意見)

被申立人は、「申立人らの本件申立てを却下する。」との裁判を求め、申立ての理由に対しつぎのように主張した。

一 申立ての理由一の事実は認める。

二 同二の(一)について

申立人らは、別紙記載のとおりの各行為を行い、再三にわたる本校の指導にもかかわらずこれに応じなかつた。申立人らの右行為は、前記学則第二三条第四号に該当するから、かかる事実と理由にもとづいて被申立人がなした本処分には何らの違法もない。

三 同二の(二)について

申立人らに対しては、本処分前再三にわたつて前記各行為に対する弁明を求め、また説得指導をくり返したが、申立人らは、その都度これを拒否したものであつて、被申立人が本処分をなすについては生徒である申立人らに対する指導的配慮を十分尽しており、手続上何らの瑕疵もない。

四 同三について

(一) 申立人らは、本処分によつて、本校における生徒としての権利は失つたが高等学校教育を受ける機会は失つていない。すなわち、二年修了までの単位修得は公的資格として認められ、その修得単位を基として高等学校教育を受けることは本人の意思によつて可能である。また被申立人は、申立人らに修学の意思があるならば、本校はその手続および指導を十分に行なう旨を、本処分を申し渡した際に申立人らおよびその親権者らに対して伝えている。

(二) 申立人らは、本処分の結果、本校の授業を受けることおよび学校内への立入は許されず、もちろん卒業試験を受験する機会はなく、卒業見込証明書の交付も受けられない。したがつて、今年度の大学受験は不可能である。しかし、本人の意思によつては前記の資格によつて将来の大学進学の機会は保障されている。

以上のとおり、本処分によつて申立人らが回復不能の損害を被ることはない。

(当裁判所の判断)

一 被申立人が申立人らに対し別表記載の日付で退学処分を行つたこと、および右処分当時申立人らがいずれも公立学校である北海道江別高等学校の生徒で、同校三年次に在学していたことは当事者間に争いがない。

二 申立人らが本件退学処分によつて、江別高校において行なわれる授業および卒業試験を受けることができなくなり、被申立人から卒業見込証明書の交付を受けることもできないので、今年度の大学進学は時期的に不可能となることについては当事者間に争いがなく、また、疎明によると、申立人遠藤衛は東京都立大学法学部又は室蘭工業大学に、同飛田文博は日本大学芸術学部に、同原田和夫は札幌商科大学にそれぞれ進学することを希望していることおよび、右各志望校の入学願書の締切日は切迫しかつ江別高校における卒業試験も本年二月中旬に行なわれることが一応認められる。

右のように、申立人らが本件退学処分によつて江別高校における在学関係を失い、ひいては、それぞれの志望大学の今年度の入学試験を受けることもできないという不利益は、行政事件訴訟法第二五条の規定にいわゆる「回復の困難な損害」にあたるものと解すべきである。けだし、右のような不利益は、本件退学処分によつてもたらされる当然の結果であり、また、申立人らが失つた右の在学関係それ自体は、本案において勝訴の確定判決を得ることによつて回復することができるものであるとしても、申立人らが本案で勝訴するためには一定の時間を必要とする必上、それによつて回復することができた在学関係は、心身の発達に応じて適切に施されなければならないという学校教育の特殊性を考えると、申立人らにとつては還らない時を経た後のものとして本件処分がなかつたならば現存するはずの在学関係と同じものではありえないし、また、その後における申立人らの卒業や進学等と現在におけるそれとの間において、申立人らの物心両面にわたる利害得失が同じであるなどとは誰しもいいえないからである。しかも、前記のように、申立人らが志望する各大学の今年度の入学願書受付の締切日や江別高校の卒業試験が切迫している以上、申立人らには、右の回復の困難な損害を避けるため本件退学処分の効力を停止すべき「緊急の必要」があるものというべきである。

三 公立高等学校における校長の懲戒処分は、その判断が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められる場合を除いては、原則として校長の裁量にまかされるものと解されるが、被申立人が本件退学処分の理由としてあげる別紙記載の各行為をどのような資料によつて認定したうえで右の処分を決定したのかという点についての疎明は何もない。しかも、前記のように、申立人らが右行為の趣旨や程度を根本的に争つている本件の現段階では、いまだ本案について理由がないとみえると速断することはできない。

四 なお、本件においては、申立人らに対する退学処分の効力を停止すると、江別高校において今後行なわれる授業その他の教育課程の実施が阻害される等公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれが生ずるものと認むべき資料はない。

五 以上のとおり申立人らの本件申立は理由があるのでこれを認容することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

別表

氏名

処分の日

遠藤衛

昭和四五年一二月二七日

飛田文博

昭和四五年一二月二四日

原田和夫

昭和四五年一二月二六日

別紙

一 申立人遠藤衛について

(一) 昭和四五年六月一三日

申立人は、午前一一時頃当校記念館前でヘルメツト覆面着用のうえ、被申立人の説得を無視して〈1〉安保粉砕〈2〉江高解体〈3〉新聞局入局弾圧反対をさけび無届集会およびデモを指導した。

(二) 同年七月六日

申立人から午前八時四〇分まで生徒大会即時開催をアピールする集会の申込みがあつたが、被申立人は学校運営上支障があると考え却下した。しかし申立人は、これを無視して記念館内で授業を放棄して無届集会を行ない、かつ各教室を廻つて参加を呼びかけるなど学校運営を著しく阻害した。

(三) 同月八日、九日

生徒会執行部の自己批判、生徒大会即時開催学校側の無条件開催承認を理由に期末試験を放棄して、被申立人の数度にわたる説得を聞きいれず、本校前庭においてハンガーストライキを強行した。

(四) 同年九月一五日

八月二三日の文書指導を無視して、札幌市における出入国管理法案粉砕デモに無届参加、同日公務執行妨害等で逮捕された。

(五) 同一〇月一七日

たび重なる不法行為に対して申し渡した無期自宅謹慎に従わず登校した。

(六) 同月二三日

前記自宅謹慎に対して反省と確約がなされたので被申立人はこれを解いたが、一二月一日の生徒大会において申立人はこれを否定した。

(七) 同年一二月九日および一一日

九日の期末テスト第二時限目および一一日の期末テスト第二時限目のテスト実施中学校内規を無視する行為があつた。

(八) 同月一七日

午後九時四〇分頃当校放送室屋根裏に侵入し職員会議の盗聴行為を行なつた。

(九) 同月一八日

本校校長室封鎖を計画し、翌一九日江別高等学校生徒木野村英幸の下宿先において封鎖計画を謀議し、かつその場で同席の生徒に対して勧誘を行ない封鎖実行行為を行なわせた。また、申立人自身も午後七時第二次封鎖に加わる予定であつたが封鎖が被申立人により事前に解除されたため実行できなかつた。

二 申立人飛田文博について

(一) 昭和四五年六月一三日

申立人は、午前一一時頃当校記念館前でヘルメツト覆面着用のうえ、被申立人の説得を無視して〈1〉安保粉砕〈2〉江高解体〈3〉新聞局入局弾圧反対をさけび無届集会およびデモを行なつた。

(二) 同年七月六日

第一時限より授業を放棄し、生徒大会即時開催をアピールする無届集会を開き、かつ各教室を廻つて参加を呼びかけるなど学校運営を著しく阻害した。

(三) 同月八日、九日

期末試験を放棄し、ハンガーストライキに同調して校内前庭で座込みを行なつた。

(四) 同年一〇月一六日

当校前庭において無届集会に参加した。

(五) 同年一二月一八日

申立人遠藤衛の処分反対等を理由として校長室を封鎖する計画をした。

(六) 同月一九日

谷藤病院食堂および本校生徒の下宿先において校長室封鎖の実行行為を謀議した。

(七) 同日

午後六時頃、校長室封鎖のため侵入し破壊行為を行なつた。

三 申立人原田和夫について

(一) 昭和四五年六月一三日

申立人は午前一一時頃、当校記念館前で、被申立人の説得を無視して無届集会およびデモを行なつた。

(二) 同年七月六日

第一時限より授業を放棄し、生徒大会即時開催をアピールする無届集会を開き、かつ教室を廻つて参加を呼びかけるなど学校運営を著しく阻害した。

(三) 同月八日、九日

生徒会執行部の自己批判、生徒大会即時開催、学校側の無条件開催承認を理由に期末試験を放棄して、被申立人の数度にわたる説得を聞きいれず、本校前庭においてハンガーストライキを強行した。

(四) 同年一二月一八日

申立人遠藤衛の処分反対を理由として校長室を封鎖する計画をした。

(五) 同月一九日

谷藤病院食堂および本校生徒下宿先において校長室封鎖のための実行行為を謀議した。

(六) 同日

午後六時頃、校長室封鎖のため侵入し破壊行為を行なつた。

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